書評『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』
初音ミクについて解説された書籍で、いちばん「まとまった」一冊。
だいたいのことはこれで理解できよう。
装丁も鈴木成一デザイン室と、気合が入っている。
基本的には時系列に「初音ミク」を知ることができる。
DTMの登場
CDを買って聞く時代から、ネットでフリーで聞く時代への変遷
クリプトン社の伊藤社長をはじめ、各関係者への取材を丹念に実施した、
「足で得た情報」は、読み応えがある。
個人的には、音声合成技術の歴史のくだりが特に興味深かった。
著者の素晴らしい仕事に、感謝である。
ただし、全面的に内容に賛同するわけではない。
著者は本書について、次のように述べている。
「ロックやテクノやヒップホップ、つまりは20世紀のポピュラー音楽の歴史にちゃんと繋げることを意図したものである」
もともと音楽ジャーナリストの方だから、ある意味いたしかたないのだが、
個人的には、音楽史のなかで『初音ミク』は語りきれないと考えており、
言及するにしても、ほんのすこしでよかったのではないかと思う。
著者は、20年ごとに「サマー・オブ・ラブ」という音楽上のカウンターカルチャーが生まれるムーブメントが起こり、60年代のウッドストック、80年代のクラブミュージックに次いで、2007年に初音ミク(ボカロ)が生まれた、という立場に立っている。
おそらく音楽業界に詳しい方にとっては、この説は興味深いものかもしれないが、一般人にとっては、そうかもしれないしそうじゃないかもしれない、どっちでもいいことではないだろうか。
(もちろん、否定しているわけでもない)
本書の最後の方に、著者とクリプトンの伊藤社長が「情報革命」というキーワードで対談しているが、本質はこっちだと思う。
情報革命の文脈で初音ミクを語り、ついでに「思考実験」程度に音楽史にちょこっとなぞらえるほうが、しっくりいくような気がするのだ。
ただし、上記の点は、私と著者との世界観の違いにすぎない。
これから「初音ミクって何? 知りたい」と思っている方には、
まず読んでみるべき本だと、おすすめできる。