初音ミク総研

初級者のための解説や曲・DVDの紹介他。視聴専門だよ。

書評『情報処理 別冊 《特集》CGMの現在と未来』

本来なら、ブログ主が一生買うこともなかったであろう雑誌。

そもそも、そんな雑誌があるとも知らなかった。

その別冊である。

http://img.fujisan.co.jp/images/products/backnumbers/871252_l.jpg

普段の号の特集をみてみると、

ビッグデータがもたらす超情報社会』

とか

『初等中等教育におけるICTの活用』

とか。

いや、これ、ド文系の私にゃあ読めないw

 

でも一時期ネット上で、この本が話題になっていた。

こんなマイナー雑誌(学会機関紙?)で初音ミクを特集している、ということで。

しかも売れ行き好調で増刷までする異例の事態であると。

初音ミクの資料に飢えていたブログ主も、すぐアマゾンでポチっと買ってみた。

残念ながら初版本ではなく「第2刷」であった。

 

さて中身であるが、目次もなく、イントロでざっと雑誌の趣旨を説明したのち、下記5本の論文が展開される。

 

後藤真孝(産業技術総合研究所

剣持秀紀(ヤマハ

伊藤博之(クリプトンフューチャーメディア)

戀塚昭彦ドワンゴ

濱野智史(日本技芸)

 

剣持氏の論文を読めば、音声合成のテクニカルかつヒストリカルな知識が手に入るし、戀塚氏の論文を読めば、ドワンゴが果たした役割がよくわかる。

N次創作といった概念も含め、初音ミクの入門的知識を得るには、

なかなか役立つ一冊だ。

 

なかでも産業技術総合研究所の後藤氏の巻頭論文は胸熱。

いかに初音ミクが可能性に満ちた奇跡の存在であるのかが理知的に熱く語られる。

ブログ主がいくら初音ミクの可能性を叫んでも好事家の世迷いごとになるのだが、

頭のいい人が初音ミクを語ると、やはり一味違う。

同氏の論文のポイントは、後日「要約」としてアップする予定。

 

産業技術総合研究所って、普段は「プルシアンブルーナノ粒子を用いた放射性セシウム除染」とか、「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術」とかを研究してる、超立派な国立研究所である。

そこの職員が目をキラキラさせて(想像)初音ミクを語ってくれるのは、

なんとも頼もしい限りである。

 

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《業務連絡》明日3月9日はミクの日です。

一説によると明日は「ザクの日」らしいが、

本ブログでは「ミクの日」とさせていただく。

毎年恒例となりつつイベントがこちら。

 

twipla.jp

 

ただしブログ主は参加しない。

だって「マジカルミライ2015」、あまり好きじゃないから。

「MIKU EXPO in NY」だったら参加したのに。

 

あとこれ。

twitter.com

 

これは参加できません。

だって、絵が描けないからw

 

というわけだが、我こそは参加する、という人は、

こうしたイベントに飛び込んでみてはいかがだろう。

 

 

初音ミクを研究した文献要約《ユリイカ編 Vol.2》

初音ミク」は「歌」を育てるソフトだ、と思う。(中略)「初音ミク」は、初音ミクというキャラクタを育てるソフトなのだ、という捉え方もできる。

 

 細馬宏通/コミュニケーション論

         『ユリイカ』(08年12月)「歌を育てたカナリアのために」

 

 

「萌え」の本質である「欲望」は、自分を表現するのではなく、他者に表現させ、その表現を所有することを要求する。この意味で初音ミクの声の調節が「調教と呼ばれるのは、その本質を言い当てている。

 

大杉重男/文芸批評

         『ユリイカ』(08年12月)「未クラシック、魅クラシック」

 

 

初音ミクのこうした逸脱性とセクシャリティにまるわる起源神話としては、アーサー・C・クラークスタンリー・キューブリックの手になる映画『2001年宇宙の旅』のHal9000が思い出される。あれこそは、もっとも原始的なヴォーカロイドではなかったろうか。

 

小谷真理/SF・ファンタジー評論

         『ユリイカ』(08年12月)「ハルとミク」

 

 

ユーザーは、〈初音ミク〉を歌わせて楽しむよりは、〈初音ミク〉の「中の人」として歌うことを楽しむのだ。 

 

石田美紀/映像文化論

         『ユリイカ』(08年12月)「『中の人』になる」

 

http://ecx.images-amazon.com/images/I/41V30DGZxvL.jpg

 

 

 

落ち込んだ時に即効で効く初音ミクの曲ベスト3

誰しも落ち込むはときがある。

 

仕事で失敗したり、

嫌なことを押し付けられたり、

勉強がうまくいかなかったり、

あてにしていたものが手に入らなかったり、

しばらく辛い日が続くとわかっていたり。

 

憂鬱で、ため息が出て、ブルーになるとき。

そんなときに、聞くと前向きになれる初音ミク曲ベスト3を、

勝手に発表する。

 

第3位

『Hand in Hand』Livetune

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自分が頑張れば誰かを助けることになれるし、

誰かが自分を助けてくれている。

自分は一人ではない、みんなとつながっているんだ。

ほっこりと、そんなやさしい気持ちになれる名曲。

ぜひミクさんの振り付けも見て欲しい。

癒されること間違いないし。

 

 

その2。

じゃなくて第2位。

『ワールドイズマイン』ryo

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歌詞は素直じゃない自己中(?)の女の子のモノローグで、

直接的には「落ち込んだ時に効く」要素はない。

だが、全体を通しての「ばかばかしさ」に救われる。

ある意味能天気なミクワールドに触れることで、

自分の「悩み」さえも、「フッ」と矮小化できる。

なお、似たような効果は

『ぽっぴっぽー』『みっくみくにしてあげる』でも確認されている。

 

 

第1位

『1/6 out of the gravity』ぼーかりおどP

www.youtube.com

ブログ主が仕事で追い詰められたときに、

何度となく助けられた曲。

会社の机で突っ伏しながら、よく聞いたなあ(笑)

つらいことも悲しいことも、

まじで6分の1になった(気がした)。

 

みなさんも、

ブルーになって、落ち込んで、ふてくされてる時には、

イヤホンを耳に入れて突っ伏して、

しばし、ミクさんの歌声に耳を傾けてはいかがだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初音ミクを研究した文献要約《ユリイカ Vol.1》

初音ミクの記号性というのは、生身の人間だから持っている良さ、逆に言えば、生身の人間が持たざるを得ない良さを全部排除した存在なんです。そこが受け入れられたのだと思います。

             佐々木渉/クリプトンフューチャーズ サウンドデータベース開発

         『ユリイカ』(08年12月)「生みの親が語る初音ミクとアングラカルチャー」

 

オナホールで有名な典雅さんに、初音ミクを作ったことについて、人づてに褒められたことがあったんですよ。すごく嬉しかったんですね。「典雅さんにシンパシーを感じる」と言うと誤解が生じると思うんですけど(笑)、「今後、アンドロイドや人工人間の理想的なパーツはどうなっていくんだろう?」という部分を真剣に考え、行き着いた先の真実に向かおうとしている部分では、すごくシンパシーを感じています。

                佐々木渉/クリプトンフューチャーズ サウンドデータベース開発

         『ユリイカ』(08年12月)「生みの親が語る初音ミクとアングラカルチャー」

 

初音ミクを通じて、これまで聞いたことのないマニアックな音楽に触れることができた人が多く生まれたのならば、文化として貢献できたのかもしれない。

                佐々木渉/クリプトンフューチャーズ サウンドデータベース開発

         『ユリイカ』(08年12月)「生みの親が語る初音ミクとアングラカルチャー」

 

(プロトタイプの初音ミクの)イラストのラフを貰った時、最初は女子高生の格好をしたものと、アンドロイド然としたものがあって、「これが歌うと言われても困るよなあ」なんて思ったんですよ(笑)

                佐々木渉/クリプトンフューチャーズ サウンドデータベース開発

         『ユリイカ』(08年12月)「生みの親が語る初音ミクとアングラカルチャー」

 

 (ニコ動の「はちゅねみく」動画について)昔でいうフリー・ジャズみたいなものですよ。フリー・ジャズのことを、作り込みの甘いジャズとは言わないじゃないですか?

                佐々木渉/クリプトンフューチャーズ サウンドデータベース開発

         『ユリイカ』(08年12月)「生みの親が語る初音ミクとアングラカルチャー」

 

ミクはミクとしてそーっとしておこうというか、あれは事件・事故の類で良いのかもなあとも思ってはいて。(中略)3年くらいしたら「初音ミク? そんなのもあったね」で良いんですよ。

               佐々木渉/クリプトンフューチャーズ サウンドデータベース開発

         『ユリイカ』(08年12月)「生みの親が語る初音ミクとアングラカルチャー」

 

 

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町内会の盆踊りで主婦が初音ミクのコスプレで踊ったところどうなったか

我が家の加入している町内会では、毎年夏休みに盆踊りを開催している。

ちょっと広めの公園に櫓を組み、公園内に電線と提灯を張り巡らせ、

屋台も出店させるなど、毎年盛り上がりを見せている。

といっても、年齢層に隔たりはある。

参加者の大多数は50代以上の地域のお年寄り。

そしてお祭り好きの小学生。

あとは、その小学生の保護者である親。

20代前後の若者にとっては、古臭い、しょぼい祭りなのだ。 

 

この盆踊りには、一つの恒例イベントがある。

それは、仮装盆踊り。

基本的には炭坑節などがずっと流れて、

みんな櫓の周りで円を描きながら踊っているのだが、

ある時間帯だけ、各地区別に住民の代表が、仮装して踊るのだ。

基本的に踊るのは、そこそこ年配の奥さん方。

まあ、一種の余興だ。

 

 

一昨年のこと。

私は妻から相談を受けた。

自分たちの地区の仮装について、何にすればいいか、という相談だ。

妻はたまたま幹事を務めており、

仮装の内容を決め、道具や衣装を揃える係であった。

前の年はAKB48の仮装だったが、今年は何にしようか。

そう悩む妻に、私は初音ミクのコス、もとい、仮装を提案した。

他に候補が思い浮かばなかったからか、その提案は、あっさりと承諾された。

メールで奥さん仲間に通達され、反対意見もなく、決定に至った。

 

ネットでコス、もとい、衣装を検索すると、

5000円くらいのものから2万円くらいのものまでたくさんあった。

妻が10着注文したのは、中でも安い価格帯のもの。

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で、当日。

残念ながら私は休日出勤の仕事が入っており、参加できなかったのだが、

その日の夜に、妻から話を聞かされた。

 

どこから聞きつけたのか、カメラをぶら下げた青年たちが、

何人もやってきたらしい。

中には、この自治体の住民ではないと思われる者もいたそうだ。

もちろん、こんな自治会の撮影にくる若者など、これまで皆無だ。

かれらは盆踊りの迷惑にならないよう、

気を使いながら端っこのほうで、しかし大型レンズで、

初音ミクのコスプレをした主婦たちの撮影に勤しんでいたという。

 

ところで、「主婦」といっても、その多くはアラフォーである。

20代は1人だけ。

私が言うのもなんだが、その中で美人と言えるのは、

あまく見積もって2〜3人だ。(そこに妻が入るかどうかは内緒)

でも青年は、熱心に撮影していたそうだ。

そして仮装盆踊りがおわると、おもむろに近づいてきて、

「おつかれさまです! いいですね、これからも頑張ってください」

と、わざわざ挨拶してから帰ったそうだ。

(妻は『悪いけど今後頑張るつもりはない』と返答したらしい)

 

また、例年盆踊りがおわると、衣装はそのまま捨てていた。

汗臭くなっているし、次の使い道もないからだ。

だがこの年は違った。

小・中学生の女子児童から「欲しい」という声が殺到し、

かなり高い競争率の抽選となってしまった。

こんなことは、前年のAKB48でも、翌年の「アナ雪」でも起こらなかった。

 

初音ミクは、不思議な存在である。

初音ミクを中心に、いろんな人たちの、

世代や性差や立場を超えた、コミュニケーションが生まれる。

それはなぜなのか。

これからも考えていきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書評『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』

 

www.ohtabooks.com

 

初音ミクについて解説された書籍で、いちばん「まとまった」一冊。

だいたいのことはこれで理解できよう。

装丁も鈴木成一デザイン室と、気合が入っている。

 

基本的には時系列に「初音ミク」を知ることができる。

 

DTMの登場

CDを買って聞く時代から、ネットでフリーで聞く時代への変遷

同人音楽の誕生による、音楽の民主化

クリプトン社の伊藤社長をはじめ、各関係者への取材を丹念に実施した、

「足で得た情報」は、読み応えがある。

個人的には、音声合成技術の歴史のくだりが特に興味深かった。

著者の素晴らしい仕事に、感謝である。

 

ただし、全面的に内容に賛同するわけではない。

著者は本書について、次のように述べている。

 

「ロックやテクノやヒップホップ、つまりは20世紀のポピュラー音楽の歴史にちゃんと繋げることを意図したものである」

 

もともと音楽ジャーナリストの方だから、ある意味いたしかたないのだが、

個人的には、音楽史のなかで『初音ミク』は語りきれないと考えており、

言及するにしても、ほんのすこしでよかったのではないかと思う。

 

著者は、20年ごとに「サマー・オブ・ラブ」という音楽上のカウンターカルチャーが生まれるムーブメントが起こり、60年代のウッドストック、80年代のクラブミュージックに次いで、2007年に初音ミク(ボカロ)が生まれた、という立場に立っている。

おそらく音楽業界に詳しい方にとっては、この説は興味深いものかもしれないが、一般人にとっては、そうかもしれないしそうじゃないかもしれない、どっちでもいいことではないだろうか。

(もちろん、否定しているわけでもない)

 

本書の最後の方に、著者とクリプトンの伊藤社長が「情報革命」というキーワードで対談しているが、本質はこっちだと思う。

情報革命の文脈で初音ミクを語り、ついでに「思考実験」程度に音楽史にちょこっとなぞらえるほうが、しっくりいくような気がするのだ。

 

ただし、上記の点は、私と著者との世界観の違いにすぎない。

 

これから「初音ミクって何? 知りたい」と思っている方には、

まず読んでみるべき本だと、おすすめできる。